‘ジダン効果’と成功の秘訣

ジダンは、一般的な監督のくくりに収まる監督ではない。グアルディオラのように、明確なフットボールのビジョンを持って、フットボールに取り組んでいるわけでもなかった。ヨーロッパの専門家達の間では、ジダンは、ただ運が良かったから、リーガ・エスパニョーラ優勝も、チャンピオンズリーグ3連覇も出来たという言い方をした。だが、3度のチャンピオンズリーグ優勝を運が良かっただけで済ませる事が出来るだろうか?1955年に始まったこの大会で、過去63年間に3度優勝出来たのは、ボブ・ペイズリー、カルロ・アンチェロッティ、ジネディーヌ・ジダンの3人だけだ。グアルディオラやモウリーニョがいくら頑張っても、3度目のタイトルに届かない。それをジダンは、トップチームとしては、初の監督だった、レアルマドリードのたった2年半で成し遂げてしまった。

指示はシンプルに
ジダンは、自分についてこう語っていた。「自分は、最高の監督ではない。常にそう言うだろう。戦術的にも、最高の監督ではない。そう言う必要もないだろう。なぜなら、あなた達が何度もそう言うからね。」と笑って答えた。ユルゲン・クロップはチャンピオンズリーグ決勝前にジダンについて、次のように語った。「彼が、戦術的にいい監督でないのなら、自分も戦術的にいい監督ではない。」

ジダンには、複雑にしない、詰め込み過ぎないというポリシーがあった。2016-17シーズンのチャンピオンズリーグ決勝戦後、モドリッチは次のように語っていた。「守備面では、何をする必要があるかを伝えていたけど、試合では、自分達を表現し、ボールをキープし、チームの為にプレーして、ベストを尽くす事を話していた。ハーフタイムにもっとラインを上げて、攻撃的に行くべきだともね。」

他にもジダンには、固執する原理原則があった。ピッチで数的優位を作る、ラインとラインの間でプレーする、
ボールを素早くさばく、ピッチを広く使う、といった事である。オフ・ザ・ボール(ボールから離れたところ)の動き
はあまり評価しなかった。こうした原則により、ハメスよりもイスコを好んだ。またジダンにとってカジミロは大事だった。レアルの選手時代に、守備的ミッドフィルダーのマケレレと一緒にプレーし、チャンピオンズリーグ優勝、リーグ制覇を成し遂げており、その役割をカジミロに重ね合わせていた(関連記事: ジダンの戦術: チャンピオンズリーグ決勝)。

アンチェロッティとの共通点
ジダンの成功の秘訣は、戦術ではないとすれば、何だろうか(個人的にはイタリアという戦術重視の国で、ユヴェントスでプレーしたジダンは戦術慣れしていると思うが)?
元レアル・マドリードのチームメイトであるマクマナマンは、ジダンの監督のスタイルについて次のように語った。「(元レアルマドリードの監督でもあった)デル・ボスケは、手の込んだトレーニングをする訳でもないが、ただ彼は選手のエゴを上手く管理して、選手をハッピーにする。ジダンも同じアプローチのように思える。」

アンチェロッティは、ジダンが監督になる前に彼の事をこう褒めた。「素晴らしい監督になるために必要な資質を兼ね備えている。カリスマ性、パーソナリティ、経験。ジダンが話せば、選手達は聞く。」ジダンを他の監督に例えるなら、アンチェロッティが一番近い監督だろう。戦術的にはとても近い。フォーメーションを頻繁に変える柔軟性と攻撃的なフットボールをするところが2人にはある。そして、控室を常にハッピーにし続ける。アンチェロッティは、選手との関係性について、次のように語っていた。「監督にとって、最も重要な事は、選手達との関係性だ。戦術やテクニックについて、話したい事だけを話す事が出来るが、選手達があなたの側にいなければ、戦術を採用するだけのチームとしてのモチベーションもなければ、そのシステムを機能させる為の選手をもいなくなるだろう。」成功の秘訣の1つは、ソーシャルスキルといってもいい。

必要であれば、ロナウドにも手をつける
ジダンは、時に大胆な策を取った。ジダンがベニテス監督から監督を引き継いだ時、最初に語ったのは「フィジカルにおいて、多くを改善する必要がある」と言う事だった。そして、ユヴェントスの選手時代に一緒にトレーニングをしたフィットネスコーチのアントニオ・ピントゥスをレアルのフィットネスコーチに任命した。ピントゥスは、トーレニングだけでなく、選手のローテーションの決定に影響を及ぼしていた。特にアウェイの試合で、スタープレーヤーを外した。触れ難いクリスチャーノ・ロナウドをジダンは説得させて、休ませた。そして、チーム内でのロナウドの役割も変えた(関連記事はこちらから)。
こうした策が功を奏し、1年目にリーグタイトルとチャンピオンズリーグ獲得に成功した。

選手を信頼する
レアルの元選手で、監督でもあった、バルダーノは、レアルのフットボールについて次のように語った。「レアルには、類まれな競争意識がある。ただレアルほど、悪いフットボールをしているチームはない。」

ジダンは選手達を信頼した。2017-18シーズンのリーグ戦では、12月に行われたホームのバルセロナ戦で3-0と大敗を喫した。ロナウドやマルセロは期待するような活躍は出来ていなかった。この後、記者に1月の移籍市場で補強を行うかについて問われると、ジダンは、「チームについて、ハッピーだと語った。」そして、チャンピオンズリーグの決勝ラウンドが始まると、レアルは、調子を取り戻した。マルセロは、ジダンの信頼に答え、ベスト16、準々決勝、準決勝で得点した。ロナウドもユヴェントス戦でオーバヘッドを決める活躍を見せた。

昨シーズン、ホッヘンハイムをブンデスリーガの3位に導いた若干31歳ナーゲルスマン監督は、監督の成功の秘訣について、次のように語っていた。「監督業の30%は戦術で、70%は社会的能力(スキル)だ。」 ジダンがスタープレーヤー達をハッピーにする事で、選手達はジダンを褒めた。こうしたジダンの影響を海外メディアは’ジダン効果’と呼んだ。

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